財産犯の保護法益

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Case 1

 被告人は,客に対して,融資する際にその担保として,客の自動車の所有権等を被告人に移転させる旨の契約を締結した。返済期限までは,借主である客が自由に自動車を利用できるものとしていた。しかし返済期限に至れば,直ちに自動車を引き揚げ転売してしまう予定のものであった。被告人は返済期限の前日,当日又は数日中にスペアキーを利用してレッカー車によって借主たる客に断りなく引き揚げた。

 裁判所は引上げ時点で,この自動車は借主の支配下にあったことが明らかであるため,被告人に所有権が実際に存在していたとしても窃盗罪は成立しうるものであり,社会通念上借主の受忍限度を超えた違法なものと言えるとした。

 窃盗罪をはじめとした財産犯について,保護法益が何なのかについては従来から争いのある部分とされています。財産の所有権こそが保護法益とする本権説と財産の占有こそが保護法益とする占有権説です。裁判所は,被告人に所有権があったとしても窃盗罪を構成するとしていることから,基本的には占有権説の立場に近いものと考えることができるでしょう。また,裁判所は,社会通念上の受忍義務にも言及していますが,本件では,自動車の引き揚げ行為及びその後の転売行為について,借主である客に秘密にしている点や,借主の許可なく持ち出す行為について行為の違法性を述べていると考えられます。

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