死者による占有

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  • 〜死者による占有〜

Case 3

 被告人は,自動車を運転中に帰宅途中のA女に対して,無理やり姦淫行為に及び,発覚をおそれ殺害するに至った。A女の頸部を強くしめ,窒息死させて死体を遺棄した。遺棄する際に,被告人は,A女が身に着けていた腕時計をもぎ取った。裁判において,この腕時計を奪取した行為について窃盗罪が成立するかについて問題となった。

 裁判所は,窃盗罪の成立を認め,その理由を以下のように述べた。殺害後に腕時計を奪取する意思が生じて,奪取行為に及んだとしても被害者が生前有していた財物の所持は死亡直後においてもなお継続して保護されるものであり,本件一連の行為は他人の財物に対する所持を侵害したものとして窃盗罪が成立する。

 本件事案では,いわゆる死者の占有という論点について問題になったものです。そもそも占有とは,物に対する事実上の支配のことを言います。そうであるならば,死者が物を占有することは不可能です。なぜなら,死んでいる以上,支配を及ぼすことはできないからです。しかし,物に対して誰も占有していないとなると,窃盗罪は成立しないことになってしまいます。そこで,裁判所は苦肉の策として,死亡直後であれば,被告人との一連の関係において占有を侵害したものとして占有侵害を認め窃盗罪の成立を肯定しました。

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